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竹波エーイチ

Author:竹波エーイチ
1967年生まれのおっさん。
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アイアンキング 不知火族

ヤマトタケルvsクマソ

アイアンキング』の最大の特徴は、その全26話全ての脚本を、佐々木守ただ一人が手掛けたということだろう。ここには複数の作者の併用による混乱は存在しない。『アイアンキング』には、佐々木守の考えるヒーロー像の全てがある。そう考えても特に問題はないだろう。

『アイアンキング』の概要についてはwikiを参照してもらうとして、ここではまず佐々木(&実相寺)が『ウルトラマン』で行った、ウルトラマン像の破壊について振り返りたい。
そもそも彼らはウルトラマンを、現在の国家体制を防衛する国家権力の一機関と考えた、らしい。

実相寺昭雄監督の言葉で言えば

「ウルトラマンのヒーローとしての本質には、正義という名分に、そんな開発側の論理が匂っていたことは否定できまい」
「どうもあのころ、ウルトラマンなど、正義の側に肩入れをしなかったのは、土建屋と歩調を合わせて開発に狂奔するイメージが、超人側にはつきまとっていたせいかもしれない」(『怪獣な日々』/ちくま文庫)

つまりウルトラマンの「正義」とは、国家にとっての「正義」であり、体制側に属する者たちの「正義」であるということだ。

そこで彼らはそのことを分かりやすく示すため、ウルトラマンの敵である怪獣を「弱者」「犠牲者」「被害者」として設定した。「故郷は地球」のジャミラは犠牲者・被害者だろうし、「怪獣墓場」のシーボーズや「恐怖の宇宙線」のガヴァドンは弱者だろう。そして殺人鬼ジャミラを除けば、彼らの作る怪獣はみな一様に積極的な破壊活動をせず、ほとんど寝ているだけの存在として登場した。暴力を振るっているのは、いつでもウルトラマンの方だった。

そうした工作の一方で、彼らはウルトラマンとハヤタの分離も図った。
地上破壊工作」ではハヤタの意思とは関係なくウルトラマンが登場し、怪獣テレスドンは退治された。ハヤタという人間の戦いの延長に存在したはずのウルトラマンは、どういうわけか理由もなく地球人類に加担する不思議な宇宙人にされてしまった。要は、ここでウルトラマンの傭兵化が行われた。人間は、ウルトラマンという外部にある武力に依存する存在だとされた。


といったところが『ウルトラマン』における実相寺/佐々木の破壊活動だったわけだが、それでは『アイアンキング』とはどのような物語だったか。
それは、日本のどこかの山中にある神社で、「不知火族」を名乗る一団が日本征服の侵略戦争を開始したというところから始まった。

不知火族の首領は言う。
「われら不知火族、2000年の野望をあと一歩に控えて、由々しき事態が発生した。小癪にも東京の国家警備機構がわれらの存在をキャッチし、われらを滅ぼすべく一人の男を出発させたとの情報が入ったのだ」
「その男の名は・・・静弦太郎!」
「今ぞ、われらの祖先の血と涙を胸に、日本征服の野望達成のために立ち上がる時が来たのだ」

こうして、反乱分子の不知火族の本拠を探し出し、それを叩き潰そうとするヒーロー静弦太郎の旅路が始まるのだが、『アイアンキング』の面白さは、実は主人公の弦太郎がアイアンキングに変身しない、という点にあった。変身するのはドジで3枚目の旅の相棒、霧島五郎のほうだった。弦太郎はいつでも人間のまま、不知火族の戦闘員やロボットと戦った。

以上、『アイアンキング』の要点をまとめればこうなる。
1、不知火族はかつて大和朝廷に滅ぼされ、国を失ってしまった人々である(=不知火族は被害者、犠牲者である)。
2、不知火族と戦うのは「国家警備機構」である(=ヒーローの背景には国家権力が存在する)。
3、主人公の弦太郎ではなく、他の者がアイアンキングである(=主人公と巨大ヒーローは分離している)。

『アイアンキング』が、『ウルトラマン』で行われた実相寺/佐々木による破壊工作と全く同じ構図をとっていることは一目瞭然だろう。『アイアンキング』とはそうした意味では、まさに実相寺/佐々木ワールドの集大成とも言えた。そして『アイアンキング』の全シナリオを担当した佐々木守は、不知火族という「悪役」を通してさらなる一歩を踏み出している。


それは、主人公静弦太郎に「旅」をさせたことから始まる。
この「旅人」という立場は、科特隊本部で事件を待っているハヤタとは全く異なるものだ。弦太郎は、彼が不知火族の本拠を探し出す事が全ての問題の解決に繋がるため、ひたすら旅路を急ぐ。弦太郎は焦っている。
そしてその結果、佐々木守は極めて自然な雰囲気のなかで、ヒーローの本音を次々と引き出していくことに成功したのだった。

まず第1話「朝風の密使」。
不知火族の本拠を探す弦太郎と五郎は野宿をしている。その時の彼らの会話は、こうだ。
「こんなことをしてる間に、やつら東京を攻めるんじゃないかな?」(五郎)
「安心しろ。やつらが狙っているのは、まず俺たちだ。俺たちは一直線にやつらの本拠を叩くまでだ」(弦太郎)
「しかしそれだと犠牲が出るぞ」(五郎)
「大の虫を殺すためだ。やむを得ん」(弦太郎)

第4話「弦太郎孤独旅」。
一緒に旅をしていたゆき子が不知火族にさらわれた。弦太郎はゆき子を助けることより、敵ロボットを倒すことを優先しようとする。ゆき子を助けにいった五郎も捕まってしまうが、そこに弦太郎がやってきて二人は救出される。しかしロボットはその間に港湾施設を破壊してしまっていた。戦いが終わったあとの弦太郎のセリフはこうだ。
「女ひとりを助けたために、とりかえしのつかない損害を出してしまった。だから後悔しているんだ」

第5話「秋風の中の決斗」。
ゆき子が不知火族のスパイであると疑った弦太郎は、ゆき子を殴り飛ばしたうえで木に縛りつける。これを見た五郎は弦太郎に「これほど言ってもまだ人間らしい気持ちを取り戻さないのか」と言って、嘆く。

第7話「大空を征くもの」。
アイアンキングと敵ロボットの戦いに巻き込まれた山中の村に火の手が上がり、老婆が助けを求めている。が、弦太郎は
「大勢の人を助けるためだ。一人や二人に構っていられるか」
と言って敵ロボットに向かおうとする。その様子をみていた和子は、老婆が死んだことを知ると五郎に言う。
「弦太郎さんが殺したようなものよ」(和子)
「弦太郎は全ての人を助けたいがために、あえて・・・」(五郎)
「そのために一人の人間を犠牲にしていいってことにはならないわ。犠牲になった人の悲しみは、同じ経験をしたものでなければわからないわ」(和子)

第8話「影の地帯」。
旅を続けるふたりの元に、東京が敵ロボットに襲われているという連絡が入る。東京に帰ろうとする五郎と、それを止める弦太郎の会話。
「無駄なことはよせ。不知火族の根拠を俺たちは叩けばいいんだ」(弦太郎)
「お前それでも人間か。やつらのロボットのために東京はめちゃめちゃにされてんだぞ。人だって死んでるんだ」(五郎)
「そんなこと、いちいち気にしていて戦いができるか」(弦太郎)


国家警備機構の公務員としての弦太郎の言動に、矛盾はない。弦太郎は極めて職務に忠実な人間だ。それにも関わらず、誰も彼もが弦太郎を非難する。そうなるように、ドラマが作られている。
では、なぜ佐々木守には、主人公弦太郎が人々に非難される必要があったのか。それはすでに書いた通りで、佐々木守は「公」を「悪」だと見なしていたからだ。

「今でも機動隊のバスを見かけると怒りがこみ上げて体が熱くなってくるんですよ」「なぜ今の若者は国に怒りを持たないのだろう」(wikipediaより)

科特隊も、国家警備機構も、機動隊も、国も、すべて「公」に属するものだ。そして佐々木守の考えでは、「公」は「公」を守るために存在していて、決して「個」を守るものではない。だから職務に忠実な模範的公務員である静弦太郎は、時に「個」を見殺しにする。

このように、佐々木守は先を急がざるを得ない弦太郎の本音を引き出す事で、「ヒーロー番組」の主人公たちは本当にぼくら「個」を守ってくれているのか、という疑問を発しているのだろう。

では、もしもヒーローたちが佐々木守の言うように「個」ではなく「公」を守っているとしたなら、その「公」とは何だろう。普通に考えれば「公」とは「個」の集まりのように思えるところだが、佐々木守にとっては違うようだ。
佐々木守はこうも言っている。

「今の日本の諸悪の根元は天皇制にあります」(Wikipediaより)

『アイアンキング』の不知火族。
その名が示すものは、彼らが熊本~鹿児島を出身とする集団であるということだろう。そして彼らは2000年前、大和朝廷によって滅ぼされた人々でもある・・・。

言うまでもない。彼らは「熊襲」だ。
そのクマソを再び滅ぼすため、彼らが「大和政府」と呼ぶ現政府から、一人の刺客がやってくる・・・。
これも言うまでもないだろう。静弦太郎は、あのヤマトタケルの再現だ。大和朝廷の命令を受けて熊襲を滅ぼした古代史最大のヒーローの旅を、静弦太郎の旅は再現している。
だとすれば、佐々木守が何者を「公」と見なしているかは明白だろう。ヤマトタケルに熊襲征伐の命を出した人。

「天皇」だ。

静弦太郎は、そして他のヒーローたちも、その実のところは「公」の最深部に潜む「天皇制」を守っている。
それが『アイアンキング』の「不知火族編」で佐々木が暗に訴えていることだとぼくは思う。

つづく


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