
金城哲夫の没後30周年にあわせて2005年に発売された『金城哲夫西へ!』というDVDがあるが、そのなかで市川森一がインタビューに答えて、上原正三が東京都町田市にはじめて家を建てた時の様子をこんなふうに話している。
「沖縄人である上原正三がですね、ついに日本の土地の一画を占領したと。沖縄人が日本の50坪くらいの土地を、ついにわがものにしたと、不思議な喜び方をしていましたね」
上原にとって日本の土地を買うことは、日本の一部を「占領」することだった。
そして上原は彼の作品のなかでも何度となく東京を占領しようとした。
第5話「二大怪獣東京を襲撃」第6話「決戦!怪獣対マット」
怪獣グドンとツインテールの出現によって東京の首都機能は大混乱に陥った。ウルトラマンも敗れ、MATのMN爆弾も効果がない。この事態に防衛庁長官は小型水爆同等の威力を持つ「スパイナー」の使用を決断し、東京都民に5時間以内の避難命令が出される。
「こうなれば東京決戦あるのみだ」
それは、核兵器の投下によって東京ごと怪獣を吹き飛ばしてしまう作戦だった。
第13話「津波怪獣の恐怖 東京大ピンチ!」第14話「二大怪獣の恐怖 東京大龍巻」
産卵のために東京に上陸した怪獣シーモンスが自衛隊による砲撃を受けると、怒った旦那のシーゴラスが東京にむかって大津波を起こす。このピンチはウルトラマンの特殊能力で防いだものの、ウルトラマンのエネルギーは尽き果ててしまう。ナレーションが言う。
「東京は二大怪獣に占領された。都民は避難し、大都会は死の街と化した」
さらにはシーゴラスとシーモンスの合わせ技によって、今度は東京を巨大な竜巻が襲う。
第16話「大怪鳥テロチルスの謎」第17話「怪鳥テロチルス 東京大空爆」
怪獣テロチルスが東京に作った巣から出る雪は、排気ガスに反応すると猛毒性のガスに変化した。東京は空気すら吸えない街になってしまったのだ。
という具合で、核兵器が、津波が、竜巻が、毒ガスが、次々に東京を襲う。第6話では、ご丁寧にもスパイナーを使用した場合のイメージとして、東京大空襲と原爆の写真が挿入されている。
とにかく執拗きわまりないこの上原の東京攻撃には、むかしから沖縄人上原正三の本土への怨念があると指摘されてきた。大東亜戦争で防波堤にされ、戦後も捨て石にされたままの沖縄人の恨みがそこにあると。
もちろん、ぼくもそういった見方を否定するものではない。
しかし本当にそこには怨念や遺恨しかなかったのかというと、疑問もある。上原正三とはそんなに矮小な人間だったのか。未来ある子ども達がみるテレビ番組に、個人的な感情をぶちまけるだけの人だったのか、と。
それに、それではなぜ、上原は東京を破壊すると同時に、MATに解散をせまったのだろう。
なぜ、防衛庁長官には「いざとなれば必ずウルトラマンが来てくれるさ」と言わせ、市民には「いざというとき我々には強い正義の味方がついている」と言わせておきながら、その彼らの面前でウルトラマンをみじめに敗北させたのだろう。
ウルトラマンが敗れ、MATが解散してしまったら、東京はどこの誰が守るというのだろう。
前回の記事に書いたように、それに対する市川森一の答えは、アメリカMATが日本を守るということだった。それ以外に怪獣に対抗できる組織は存在しないんだから、当然の結論だろう。都民が、政府部会が、そして防衛庁までが望んだことは、つまりはそういうことだった。怪獣退治の名目で、アメリカMATが東京湾の基地を使い、中央区神田にある地上オフィスを使うということだった。そして、怪獣が出現する度にアメリカ人の乗ったマットアローが東京上空を飛び、ミサイルやレーザービームを撃ちまくるということだった。
これは要するに、沖縄とまったく同じ状況が東京に生まれるということだ。
ここでもう一度、切通理作さんの名著『怪獣使いと少年』から、上原本人の談話を引用したい。
「戦後、日本のアメリカ軍の軍事基地の七四%は沖縄にあるけど、そんなこと、日本人が本当に沖縄のことを日本だと思っていたら許しておくはずがないでしょう。あなたも含めて。沖縄が遠くにあるから自分たちは安心だという日本人。東シナ海の海溝はやはり相当に深いと思います」
上原はその「遠くにある」はずの「軍事基地」を、東京に引き寄せてみたのではないか、とぼくは思う。
もちろん、実際にアメリカMATが東京に上陸して、東京を「占領」する映像なんか作ることはできない。それは言葉に発することすら憚られることだ。だから、視聴者の想像力に託すしかない。
「MAT不要論」が、現実世界の自衛隊不要論を背景にしていることは言うまでもない。
平和憲法のおかげで武力を使わずに日本は平和を成し遂げた、と本土の人は誇らしげに言うが、それが国防をアメリカに依存し、武力を沖縄に押し付けた結果の「平和」であることは元より疑いようがない。
そして本土の人がそんな空虚なセリフを吐けるのは、結局のところ国防と、それを担わされている沖縄への無関心でしかないのだ。
だから上原が東京を虐め抜いた理由は、沖縄人としての本土への復讐心や怨念のような負の感情からだけではなかったと、ぼくは思う。そこには真の「平和」に対する問いかけがあった。いま目の前で怪獣が暴れている状態でMATを解散させる。頼みのウルトラマンも敗れ去る。テレビの前の子どもたちは、パパにこう聞くことだろう。
「じゃあ誰がぼくたちを守ってくれるの?」
そこからパパとその子が一緒になって、本当のこの国の「平和」について考え始めるきっかけとなるものを、上原は提示したんじゃないかとぼくは思う。なにしろ改めてよく考えてみなくても、日本の安全を保障している在日米軍の本部は、沖縄ではなく東京都内にあるのだから・・・。
などと書いてはみたものの、実際には誰も上原の期待通りの反応を見せる人はいなかったのだろう。
ウルトラマンがたびたび怪獣に負けるだけでは効果がない。そう思ったかどうかは知らないが、上原はついにシリーズ途中での暴挙に出る。
ウルトラマンの殺害だ。
つづく






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