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竹波エーイチ

Author:竹波エーイチ
1967年生まれのおっさん。
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人造人間キカイダー ~テレビ版の良心回路

ジロー誕生

うっかり調子に乗って、マンガ版にまで話を広げてしまった結果、いったい何の話を書いているのか自分でも訳が分からなくなっているこのブログだが、ここでもう一度テーマらしきものに立ち返ると、元々は『仮面ライダー』の亜流として始まったはずの『人造人間キカイダー』は、中盤から長坂秀佳という独特の眼力をもつ作家がメインライターに座ったことで『仮面ライダー』の世界から完全に逸脱したのみならず、『仮面ライダー』的なヒーロー像への痛烈な批評にまで達してしまった、という話だった。

それで強引に話を戻すが、その長坂秀佳ご本人は『人造人間キカイダー』について、次のように振り返っている。

「まず、設定ありき。そこにある設定を最大限に活かすというのが、オレの姿勢なんだよ。与えられた設定の、他人が気づいてない特色を膨らませるというか。
『キカイダー』って(主人公が)半分正義で半分悪で悩む、これが唯一の特色なのに、オレが入る前は、その設定がほとんど活かされてなかったんだ。正直”何なんだよ、これは”と思ったね」(KODANSHA Official File Magazine 仮面ライダー Vol.5/2004年刊)


ここで”何なんだよ”と言われているのは、常識的に考えれば『人造人間キカイダー』の当初のメインライターであった伊上勝だろう。伊上勝は『仮面ライダー』『超人バロム・1』『変身忍者嵐』に続いて、『人造人間キカイダー』でもメインライターを務めたが、『キカイダー』からは途中で完全に手を引いている。
一方、長坂秀佳のほうは、初めのうちは5回に1回くらいのペースの参加だったが、次第にピッチを上げ、終盤のハカイダー登場以降は、最終回までの全脚本を担当した。

またあとで詳しく書きたいが、石ノ森マンガ版でのハカイダーというのは、それほど重要な意味を持っていない。頭部に光明寺博士の脳髄が移植されているので、キカイダーが戦うことができない相手、というだけの存在だ。その設定を「最大限に活か」して、特撮テレビドラマ史上、もっとも有名な悪役に仕立て上げたのは長坂秀佳だ。

と書くと、いかにも伊上勝が凡庸な作家であるかのようだが、そんなことはない。
『人造人間キカイダー』でいえば、石ノ森は、ジローであろうとキカイダーであろうとプロフェッサー・ギルに超音波笛(悪魔笛)を吹かれると良心回路は無力だ、と設定したが、テレビ版ではキカイダーの姿であれば良心回路は完全に作動する、と変更した。笛を吹かれて苦痛にのたうち回るのは、ジローの姿のときに限定した。

この変更によって、『人造人間キカイダー』は俄然、面白くなった。ジローはいつでも自由にキカイダーになれるわけではない。まず、ギルの吹き鳴らす笛の音からいかに逃れるか。例えば、クルマのクラクションを鳴らすとか、わざと頭に衝撃を受けるとか、滝に飛び込むとか、作家の腕の見せ所だろう。

が、その一方で、ひとたびキカイダーに「チェンジ」してしまえば、特に弱点のないキカイダーは無敵だ。なにしろダークロボットの生みの親、光明寺博士が、全てを知り尽くしたダークロボットを倒すために作ったのがキカイダーなのだから、負けるはずがない。

そう、マンガ版では何の命令も受けていなかった無意味なロボット・キカイダーは、テレビ版では明確な命令を受けたロボットだった。第1話でジローは言う。
「ダークのおそろしい野望を砕くためにきた男!」
これが光明寺博士がジロー=キカイダーに与えた命令だ。さらに、ギルにダーク基地内の研究室を襲撃された博士はジローに念押しする。
「戦え!戦うんだジロー! ジロー、ダークの陰謀を打ち破ってくれ!」

そうして誕生したジロー=キカイダーだったが、よく考えてみると、ジローはロボットのくせに命令違反を犯しているように見える。光明寺博士の命令は、ダークと戦ってその陰謀を打ち破ること、だった。それなのに、ジローは積極的にダーク基地を探し出してギルを殺そうとはしない。
ではジローが何をしていたかと言えば、第6話ではこう言っている(伊上勝脚本)。
「ダーク破壊部隊を倒し、光明寺博士を捜す任務がある」
ジローは、そのうちの後者を優先した。

ダーク基地で燃えさかる炎に巻かれた光明寺博士は、その時のショックのせいか記憶を失い、ダークの追っ手に怯えて逃げ回る日々だった。それを必死になって捜しているのがミツコとマサルの姉弟だ。ジローは、自分自身がダークに追われる身なので、陰からその二人を見守り、保護している。そしてその一方で、自分の手でも博士の行方を捜している。ジローは、そこまで含めて自分に与えられた「任務」だと拡大解釈している。

大きく見れば、テレビ版の『キカイダー』の初期設定はここまでだ。
マンガ版との相違点は、大きく言って2点。ジローが人間によって命令を受けたロボットであること。それと、ジローでは不完全な良心回路は、キカイダーにチェンジすれば完全に作動すること。

もちろんこの変更は、1話完結で一応は話をまとめなくてはならないテレビの事情からきたものだろう。キカイダーにチェンジしても悪魔笛に対抗できないというのでは、ヒーロー番組として成立しない。ギルにしても、自動笛吹き機でも作った方が安心して悪事を働けることになる。

こうしてテレビ版の良心回路は、マンガ版の良心回路とはまったく異なる装置となった。
これは逆に考えれば、石ノ森の考えた『キカイダー』の初期設定を、『仮面ライダー』や『変身忍者嵐』に無理矢理近づけていった結果と見ることも出来るだろう。つまり、表面的には『キカイダー』も『仮面ライダー』も『変身忍者嵐』も、1話づつを見る限りにおいては、そう大きな違いはないように見える。悪の軍団がいて、その陰謀を阻止する「正義のヒーロー」がいる。そして「正義のヒーロー」の最大の弱点とは、彼らが人間の姿でいることに他ならない・・・。

物語上の基本構造を同じくするこれら三作で、『キカイダー』を『キカイダー』たらしめているのが「良心回路」の存在だ。では、「まず、設定ありき」の長坂秀佳は、この「良心回路」という設定を、どう「膨らませ」たのだろうか。

つづく

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